なるほど!米の新発見 脳・腎臓・肝臓・腸・欲にはたらく!5つの最新研究で知る米の力

02腎臓にはたらく米

米に含まれるタンパク質が小腸で作られるホルモン(インクレチン)を活性化させて、すい臓に指令を送り、インスリンの分泌を促進することがわかってきました。
そうして作られたインスリンが血糖値の上昇を抑えて、腎臓の負担が減り、糖尿病をはじめとした腎疾患の予防に役立つことが期待されています。

米タンパク質がホルモン分泌に作用して
腎疾患の進行を遅延させる

門脇 基二 Motoni Kadowaki
新潟工科大学 副学長・教授

最新研究の
ポイント

米の主成分はデンプンであり、タンパク質の含量が低いことから、タンパク質供給源としての価値は軽視されがちであった。しかし、現在の食生活において、食品別にみるとタンパク質供給源として、米は肉・魚に次いで実は3番目に多く、その重要性からも白米タンパク質の価値は再評価されるべきである。近年、その機能性を解明する試みが徐々に始まっている。
本稿ではこの白米タンパク質に注目し、これまでに報告されている機能性、特に糖尿病や糖尿病性腎症への効果を中心に紹介する。

米タンパク質研究が生む新たな地平

健康食としての和食に注目が集まるようになり、2013年には和食がユネスコの無形文化遺産にも登録され、世界規模で和食が受け入れられつつある。和食は一汁三菜を基本として、「うまみ」を活用することで動物性脂肪が少ない食事を可能としている。その中心に位置する食品は米である。米の主要な栄養成分は炭水化物(デンプン)であり、精白米の約77%を占めている。
また、米には炭水化物以外にも実はさまざまな栄養成分が含まれているが、2番目に主要なものはタンパク質である。
しかし、大豆などに比べ、米の中のタンパク質が含量として低いこと(約6%)、食が欧米化して米の摂取量が数十年前と比較して半減していること、さらに、米タンパク質の精製物の安定供給に課題があったことなどから、米タンパク質自体があまり注目されてこなかった。
しかし、近年になり白米タンパク質の簡便かつ安定的な供給方法が報告され、動物試験による機能性評価をおこなう研究が日本・中国・韓国などでも徐々に始まり、成果を上げつつある。

米の約6%を占める米タンパク質とは?

わたしたちが普段白米として摂取している部位は、精米により胚芽やアリューロン層などの糠層を除去した胚乳部であり、先に述べたようにタンパク質は6%程度しか含まれていない(図1)。この胚乳部に含まれるタンパク質のほとんどは、種子発芽時の窒素供給源として利用される貯蔵タンパク質である。米には、また米糠部にもタンパク質(RBP)が存在するが、ここでは主に白米、つまり胚乳部のタンパク質(REP)について述べる。
この白米タンパク質は溶媒への溶解性の違いからいくつかのグループに分けられている。主要なものを挙げると、塩可溶性のグロブリン、希酸・希アルカリ可溶性のグルテリン、アルコール可溶性のプロラミンなどが存在している(図2)。これら貯蔵タンパク質はプロテインボディと呼ばれる顆粒に蓄積されることが知られており、白米は由来や構造、蓄積タンパク質の異なる2種類のプロテインボディを有することが明らかとなっている。
現在までに報告されている白米タンパク質の精製方法は大きく2つ存在しており、その精製物については特に消化性について性質が大きく異なることが明らかとなっている。ひとつはアルカリ抽出によりタンパク質を溶出させタンパク質を回収する方法(精製物:AE-REP)であり、もうひとつは耐熱性アミラーゼによりデンプンを分解したあとタンパク質を回収する方法(精製物:SD-REP)である。これら2つのタンパク質精製物について、消化性に関する研究がおこなわれている。

腎臓疾患予防に向けた米タンパク質の可能性

糖尿病は慢性的な高血糖を原因としてさまざまな合併症を発症する疾病であり、近年日本などの先進国だけでなく、発展途上国でも患者数の激増がみられ、世界規模での対策が求められている。近年になり、重篤な合併症のひとつである糖尿病性腎症に対する大豆タンパク質の有効性について報告がなされるようになり、白米タンパク質の有効性についても徐々に検討が行われるようになった。そこで白米タンパク質が糖尿病や糖尿病性腎症に与える影響について紹介する。

米タンパク質がホルモンバランスを整える

インスリン分泌を促進する消化管ホルモン「インクレチン」のひとつであるGlucagon like peptide-1(GLP-1)は、小腸の腸内分泌細胞から分泌される。トウモロコシの主要タンパク質であるゼイン分解物などの食物ペプチドが、このGLP-1の分泌促進作用を有していることが報告されている。
Ishikawaらはタンパク質分解酵素のペプシンにより米胚乳タンパク質AE-REPを加水分解したペプチド(REPH)のラットへの投与が、消化管ホルモンGLP-1分泌に与える影響について報告した(図3)。また、消化管ホルモンGLP-1分泌能を有する培養細胞であるGLUTag 細胞に対しREPHを添加すると、GLP-1の分泌が有意に上昇することが示された。さらにGLP-1を分解する作用を有する血中のdipeptidyl peptidase-IV(DPP-IV)活性が、REPHの投与により働きが弱まることが明らかになった。
このような消化管ホルモンGLP-1分泌促進および分解抑制作用を介して、米胚乳タンパク質を加水分解したペプチド・REPHはラット血中の活性型GLP-1濃度を上昇させ、食後血糖値の上昇をおだやかにする作用を有していることが報告された。上記報告により白米タンパク質あるいはその分解物は、活性型GLP-1の血中濃度を増加させ、糖尿病の進行を抑制する作用を有していることが示唆された。
また、米糠タンパク質を加水分解したペプチドも同様な作用を持つことから、米タンパク質は血糖値調節に対して有益に作用する可能性が報告され、その合併症についても有益な効果を有している可能性が期待される。

アジア・欧米、さまざまなタイプの糖尿病対策へ

Kubotaらは、アジア人種に多く見られる著しい肥満を呈さない糖尿病のモデルであるGoto-Kakizakiラット(GKラット)を用いて、白米タンパク質の摂取が糖尿病や糖尿病性腎症に与える影響について報告した。GK ラットに対し、10週間、カゼインまたは米胚乳タンパク質AE-REPを窒素源とした30%高スクロース飼料を摂取させた結果、AE-REP摂取により空腹時血糖値など糖尿病の有意な改善作用はみられなかったものの、尿中アルブミン排泄や、また、血液を濾過する腎糸球体の組織障害の指標であるメサンギウムマトリックススコアが、カゼインと比較して有意に改善していることが明らかとなった(図4)。
また、欧米人で多く見られる著しい肥満を呈する糖尿病のモデルであるZucker Diabetic Fatty ラット(ZDFラット)を用いた検討も行われている。ZDFラットに対し8週間、カゼインまたは米胚乳タンパク質AE-REPを用いて調製した飼料を摂取させたところ、AE-REP摂取により、血糖状態の指標となるヘモグロビンA1cが有意に低下することが明らかとなり、糖尿病の進行を遅延させる機能を有している可能性が示された。また、GKラットの報告と同様にカゼインと比較して、米胚乳タンパク質AE-REP摂取により尿中アルブミン排泄が有意に低値を示し、メサンギウムマトリックススコアも有意な改善がみられた。
以上の報告から白米タンパク質の摂取は糖尿病の進行を遅延し、その合併症である糖尿病性腎症の進行も遅延させることが示された。今後、臨床試験が進み、ますます米タンパク質の機能性研究が発展していくことが期待される。