肝臓にはたらく米
米に含まれる成分が肝臓の遺伝子を活性化し、コレステロールから胆汁酸への代謝をうながすことが明らかになってきました。
さらに、胆汁酸がコレステロールとして再吸収されることを抑制し、肝臓および血液中のコレステロール値を下げる機能を持つ可能性がわかってきました。
米食がメタボリックシンドロームを予防し、動脈硬化症などのリスクを減らすことが期待されています。
コレステロール値を低減し
遺伝子レベルから改善する米の機能性
- 山本 祐司 Yuji Yamamoto
- 東京農業大学 応用生物科学部 教授
最新研究の
ポイント
食生活の欧米化および運動不足によって、内臓脂肪型肥満に起因するメタボリックシンドロームの罹患者が増加している。メタボリックシンドロームによって引き起こされる動脈硬化症は、血管壁にコレステロールが粥状に蓄積した結果、血管をふさぐことで起こる。したがって、高コレステロール血症は、動脈硬化性疾患のリスクファクターといえる。
本稿では、こうした高コレステロール状態を改善するような米の機能性を紹介する。
伝統的な米食でコレステロール値が下がる?
米は、アジアを中心に世界の人口の約半数が主食としている重要な穀物である。わが国でも、主食源としての地位はゆるぎないものの、近年の食生活の多様化によって米の消費量が減少の一途をたどっている。そこで、米の主食源以外の付加価値が模索されてきている。
本稿では、私たちの食生活に即した米が、肥満における体内の高コレステロール状態に対して改善効果を有するのかどうかを明らかにした試験結果を中心に、米の機能性について紹介する。
過食行動により肥満および高コレステロール血症になるZucker-Fatty(肥満モデルラット)と、同系統であり過食行動を起こさないZucker-Lean(基準ラット)に数日間、標準精製飼料(AIN-93G)を与えた。
その後AIN-93Gをベースに炭水化物源であるコーンスターチをα化白米またはα化玄米に置き換え、飼料あたりのエネルギー量が変化しないように調整した「白米飼料」「玄米飼料」を作成した。実験では肥満モデルラットにそれぞれAIN-93G(標準飼料群)、白米飼料(白米群)および玄米飼料(玄米群)を100日間与えた。
また、基準として基準ラットにAIN-93Gを与えた基準群も用意した(図1)。なおα化白米およびα化玄米ともにアルファー食品株式会社より提供されたものを使用した。
白米・玄米ともにコレステロール値が改善
基準群および標準飼料群、白米群、玄米群の血清中の総コレステロール濃度を図2に示した。血清コレステロール濃度を比較したところ、基準群に対して標準飼料群は総コレステロール値およびHDLコレステロール値の有意な増加が認められた。
つまり、肥満モデルラットを用いた標準飼料群は、高コレステロール状態であることを確認した。また、標準飼料群に比べて白米群ならびに玄米群は総コレステロール値・HDL コレステロールともに有意な減少が認められた。一方、白米群と玄米群の間では、総コレステロール・HDL コレステロールともに有意な差はなかった(図2)。
また、各群の肝臓脂質中の総コレステロール含量の結果を図3に示した。基準群および標準飼料群、白米群、玄米群の肝臓コレステロール量を比較したところ、基準群に対して標準飼料群では、総コレステロール含量の有意な増加が認められた。つまり、肥満モデルラットを用いた標準飼料群は肥満状態であることを確認した。一方、標準飼料群に比べて白米群および玄米群ともに、肝臓コレステロール値の有意な減少が認められた。また、白米群と玄米群の間には有意な差はないものの玄米群に低値傾向が見られた。
以上から、白米および玄米には、血清コレステロールと肝臓脂質コレステロールの低減効果があることが明らかとなった。
遺伝子レベルまで作用する米の力
コレステロールから胆汁酸へと代謝する速度を決定する律速酵素・CYP7A1の遺伝子発現量の解析結果を図4に示した。数値に関しては、各遺伝子発現量を内部標準物質であるβ-actin遺伝子発現量で除する内部標準法をとった上で、標準飼料群を1とした相対値で示した。CYP7A1に関して、基準群と標準飼料群間に有意な差はなかったのに対し、標準飼料群および白米群に比べて、玄米群で有意な遺伝子発現量の増加が認められた。
以上の結果より、α化玄米摂取が肝臓内のコレステロール代謝機構を変化させる可能性が示唆された。
米タンパク質も機能性に寄与する可能性
α化玄米の効果を検討したところ、α化玄米摂取で血清および肝臓中のコレステロール値の顕著な減少が認められた。また、興味深いことにα化白米でも、同様の影響が認められた。Justoらは、肥満を呈するZucker-Fattyラットに水溶性米糠抽出物を摂取させると血中コレステロールは減少するものの、肝臓中のコレステロールは逆に増加したと報告している。したがって、α化玄米が有するこの効果は、従来から報告がある米糠に含まれる機能成分の影響だけではなく、白米由来の成分の影響も受けているものと推察した。
白米からの米タンパク質抽出物を摂取させると、血中および肝臓コレステロール値が減少するという報告がある。これは、米タンパク質の消化性がカゼインなどのタンパク質に比べて低いこと、米タンパク質の消化後の難消化性ペプチド・難消化性タンパク質であるグルテリンやプロラミンなどのレジスタントプロテインの影響であるとされている。本試験で得られた効果は、これらのレジスタントプロテインの影響も受けている可能性が考えられる。
また、我々は肝臓中のコレステロール量の減少によって、コレステロール代謝関連遺伝子も変動していることを見出した。以上から、実際の食生活に即した米が、肥満モデルラットにおけるコレステロール低減効果を有し、その影響が遺伝子レベルにまで及んでいる可能性があることを示した。また、この効果が玄米由来の機能性成分に加え、白米由来の機能性成分の相加的効果である可能性が示唆された。
ヒトにおいてもコレステロール値を改善
筆者らは最新の研究として、長期間の玄米食摂取による血中コレステロール値低減効果を、コレステロール高値者や中高年の健常者などを主な対象にして、大規模(被験者117人)かつ長期間(90日間)の検証をおこなった。
被験者のうち血中コレステロール値基準範囲外(高コレステロール状態)の者を抽出して解析した結果、血中総コレステロール値基準範囲外群内では、玄米食摂取によって血中総コレステロール値の有意な減少が認められた。また、血中LDLコレステロール値についても同様の効果が認められた。
一方、各血中コレステロール値基準範囲内群(高コレステロール状態ではない)では、血中コレステロール値に有意な変動はみられなかった。基準範囲内群においては、血中コレステロール値が維持されていたのではないかと考える。
以上を総合的に考察すると、高コレステロール状態において玄米が血中コレステロール値改善効果を有することが統計学的有意差をもって示された。
これらの結果は、米が持つ機能性を有することを示したものである。この機能性の詳細が今後解明されれば、生体調節機能と関連づけた新たな付加価値を提示することが可能となり、米の消費量回復にもつながることが期待される。