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なるほど!米の新発見 脳・腎臓・肝臓・腸・欲にはたらく!5つの最新研究で知る米の力

04にはたらく米

小腸での消化・吸収に耐えた米のデンプン「レジスタントスターチ」が、大腸のすみずみまで届くことがわかってきました。
レジスタントスターチが大腸内で発酵し、有益な短鎖脂肪酸を作ったり、ビフィズス菌をアシストしたりすることで、腸内環境を整えることが期待されています。

米に含まれる
レジスタントスターチの腸内環境改善効果

早川 享志 Takashi Hayakawa
岐阜大学 応用生物科学部 教授

最新研究の
ポイント

日本は“ 米食” の歴史が長く、従来、エネルギー比で見た糖質摂取量が多い。しかし、近年の糖質摂取量の低下は著しく、エネルギー比で78%から60.4%へと約18%も低下している。
しかし、最近の研究で、米に含まれるデンプン成分が、小腸での消化・吸収を免れ、大腸にまで達し、腸内環境を整える働きかけをしていることがわかってきた。
本稿ではそうした難消化性デンプン「レジスタントスターチ」について、その生理機能を中心に解説する。

消化に“抵抗”するレジスタントスターチとは

「消化が速やかで完全に消化・吸収されるもの」「消化は緩やかであるが最終的には完全に消化・吸収されるもの」に対して、レジスタントスターチは「なんらかの理由で、小腸での消化・吸収を免れたデンプン」とされている。
レジスタントスターチはデンプン質を豊富に含む米やトウモロコシ、じゃがいも等に含まれる。その化学的性質や難消化性からレジスタントスターチは食物繊維のように腸内環境に有益なふるまいをすると考えられている。
食物繊維は食品に含まれる難消化成分の総体であり、その物理的特性により、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とに分けて考えられることが多い。
レジスタントスターチの特性を見るために、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維と比較してみたところ、レジスタントスターチは両者の特徴をほぼ網羅していることがわかる(表1)。

腸内環境に作用する米の生理機能に迫る

玄米は胚乳の周りを、タンパク質などで構成される細胞層「アリューロン層」が覆っているため、その裏面にあるデンプンは消化酵素であるアミラーゼの作用を受けにくく、一部は消化を免れて大腸に達する。
「米」という素材の評価を適正におこなう場合は素材丸ごとを飼料に加えておこなう必要があるが、生体サイズの制約上、粉砕化した試料を飼料に添加して投与するラットやマウスで評価することは難しい。筆者はブタを用いて評価する機会を得たので、消化過程を中心に米の生理機能について概要を示す。炭水化物、脂肪、タンパク質のエネルギー比を日本の食事に似せた玄米食と、白米食(栄養成分が玄米食と同等になるよう調整)を午前、午後の2回に分けてブタに3週間投与した。
1週目と2週目には新鮮糞を回収。3週目に麻酔下で解剖し、盲腸および結腸を採取した。結腸は近位、中位および遠位の3部位に分け、回収した部位の内容物を回収し、pHや短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、n-酪酸)の濃度などを計測した。大腸内各部位における短鎖脂肪酸濃度、とくにn-酪酸の場合、白米食では若干の低下を見せながらも、遠位結腸においても盲腸部位の濃度をおおむね保っていた。玄米食では盲腸以降、遠位結腸に向けて濃度は増加の一途であった(図1)。
また、玄米食においては、1週目と2週目の新鮮糞のpHは有意な低下を示し、短鎖脂肪酸の濃度は有意な上昇を示し酸性側に傾いた。大腸各部位の内容物pHは盲腸部位と同等のpHを維持し遠位結腸では低下が見られた。米、とくに玄米には発酵基質となるレジスタントスターチの高い供給能力があることが示唆された。各部位におけるデンプンの残存量を見ると、盲腸から中位結腸まで低下は見られたものの、白米食では遠位結腸部位で0.8%、玄米食では遠位結腸部位で1.3%と高い含量であった(図2)。

短鎖脂肪酸生成アシストで腸内環境を整える

大腸内発酵は、従来は家畜などの反芻動物のエネルギー獲得手段として重要性が認識されていたが、丁度レジスタントスターチが認知され始めた頃に短鎖脂肪酸が注目され始めた。直腸の潰瘍性大腸炎に対する短鎖脂肪酸混合物の有効性、遠位潰瘍性結腸炎に対するn-酪酸浣腸の有効性など短鎖脂肪酸は消化管内において産生されて吸収・利用がある一方で、それ自体が消化管に対して作用する可能性を持つ。
実際、プロピオン酸は、腸管収縮のシグナル物質として作用することが指摘されており、n-酪酸は結腸上皮細胞の主要なエネルギー源であり、正常な細胞形成に重要な役割を演じているなど、有用な効果が期待されてきた。
こうしたことからn-酪酸はとくに大腸にとって有益な短鎖脂肪酸の一つとして、その量を増やすことは良いことであると見なされてきた。

乳酸菌を助け有害物質も抑える

また、レジスタントスターチは乳酸菌の一種であるビフィズス菌(Bifidobacterium)やラクトバシラス属細菌(Lactobacillus)の増殖を促進するプレバイオティクスとしての効果もある。
一方で、大腸内発酵で生成するものの中には不都合な物質もある。
著者らは、これらとレジスタントスターチの関係も実験した。
未消化のタンパク質に由来する芳香族アミノ酸は、腸内細菌の働きによりフェノールやp-クレゾールといったフェノール化合物を生み出し、これらは大腸の疾患との相関関係が指摘されている。マウス・ラット向けの標準精製飼料を基準として、レジスタントスターチを含む高アミロースコーンスターチ(HAS)を食物繊維相当量として0、2.5、5、7.5%と段階的に添加したチロシン含有飼料でラットを飼育した。
その場合、HASを添加していないHAS0%(H0)では盲腸内容物中および糞中のフェノール化合物は有意に増加し、HAS 2.5%以上の添加で効果的にフェノール化合物の発生量を低下させることを明らかにした(図3)。

レジスタントスターチが大腸がんを防ぐ?

日本においては大腸がんの増加が著しく、食事との関連が言及されている。疫学的には脂質やタンパク質摂取量と大腸がん発症率とは正の相関が報告されている。一方、食物繊維やデンプンの摂取量とは負の相関があり、デンプンの場合の方が負の相関が強く、大腸がんの発症抑制に対してより有効であることを示唆している(表2)。
これは、デンプンに含まれるレジスタントスターチの寄与と考えられる。大腸疾患者(アデノーマあるいは大腸憩室症の患者)においては、対照者と比べて糞便中のデンプン含量が少ないことが報告されている。これは、大腸に達したデンプン(= レジスタントスターチ)が少ないことが大腸疾患の要因であることを示唆している。
レジスタントスターチ摂取は食物繊維と比べて、短鎖脂肪酸の中でもn-酪酸量をとくに増やす効果がある。n-酪酸は、結腸上皮細胞の主要なエネルギー源であり、正常な細胞を分化することに寄与する短鎖脂肪酸であることが関係していると考えられる。また、レジスタントスターチはプレバイオティクスとして働き、プロバイオテイクスであるビフィズス菌と併用することによって、ビフィズス菌の腸内保持を相互に高めあう「シンバイオティクス」としての用方も期待できる。以上のように、米に含まれるレジスタントスターチには、短鎖脂肪酸産生、フェノール化合物低減化、プレバイオティクス効果、と多彩に大腸内環境を整える効果があるといえる。